血管の構造と働き

血管は命綱

 全身にくまなく張りめぐらされている血管の長さは想像をはるかに超える長さです。たとえば小腸のじゅう毛というヒダを広げて、その面積を合わせるとテニスコートの広さになり、このテニスコート全体に顕微鏡で見えるくらいの血管が張りめぐらされていることから考えても、小腸だけでもその合計の長さがいかに長いかおわかりいただけると思います。

 血管の中には血液が流れています。血液には血液細胞やさまざまな栄養分、あるいは酸素などが含まれており、全身の細胞が正常に活動するのに必要な物質を供給しています。同時に、細胞がだす老廃物や二酸化炭素を運び出す働きもしています。

 心臓からでていく血管を動脈、戻る血管を静脈と名づけます。一般に動脈は細胞に必要な物質を運び、静脈は老廃物を運びます。どちらも大切ですが、動脈の病気は健康にとくに重大な影響をおよぼします。

 動脈が切断されると危険です。このためか、動脈は体の内側にあり、静脈は表側にあります。手の甲に浮かんで見える青白い血管は静脈で、手首に拍動のみ触れ、見えない血管が動脈です。

心臓が血管の大元締め

 人間を含めて動物の生成は、1個の細胞からはじまります。1個が2個になり、2個が4個になっていきます。ごぞんじ、細胞分裂を繰り返しながら、徐々にちゃんとした形になっていくわけです。

 ところで、その細胞分裂が進み、最初に生命が宿るのはどこでしょうか。それは心臓なのです。

 心臓といっても、まだそれらしい形はできていません。形もできていないうちに、1本の細い血管がつくられます。不思議なことに、この血管は伸縮します。クネクネと動くのです。これが最初の心臓の鼓動です。

 やがて細胞分裂が進み、目や鼻や手や足が形づくられるころには、あの1本の血管はすでに心臓というりっぱな形をつくり終え、全身に必要な栄養分を送るポンプとしての役目をはたします。つまり、心臓というのはもともとは1本の血管が変化してつくられたものなのです。しかも重要なことは、どの臓器よりも早くつくられ、活動を開始するという点です。いかに心臓というものが重要なものであるかがわかります。と同時に、血管が生命のもとになっていることもおわかりいただけると思います。

血液は二つの循環に分かれる

 全身にくまなく流れる血液。正確には二つの系統があります。

 一つは体循環(大循環)といいます。要するに、体全体をぐるりとかけめぐるもので、普通に「血液の流れ」という場合は、この循環をさしています。

 次が肺循環(小循環)といわれるもの。これは、肺と心臓の循環をいいます。この場合は動脈と静脈の中を流れる血液の酸素の含有量が逆になります。解剖学的には、心臓から出る血液を動脈といい、新鮮で栄養たっぷりの血液をさしますが、肺循環中の肺動脈の血はいわば汚れていて、老廃物と炭酸ガスがたっぷりの血液です。逆に肺静脈は酸素をたくさん含んだ新鮮なものです。その理由は、肺での酸素と二酸化炭素の交感にあります。つまり体循環を戻って心臓に帰ってきた汚れた血液は、肺循環でクリーンな状態に戻され、肺静脈を通り心臓を経由して体循環に戻っていくのです。

 また、体循環の一部ですが、心臓の栄養をつかさどる心臓循環(冠状循環)があり動物硬化性心臓の理解に大切です。

 心臓はどの臓器よりも丈夫で長持ちする構造になっています。筋肉の固まりともいえるもので、休みなく活動していますから、消費するエネルギーもたいへんな量になります。心臓が栄養たっぷりの血液を流しているのだから、その血液から直接必要な酸素や栄養を摂取すればいいのですが、それができません。

 その結果、心臓にだけ酸素と栄養を供給する丈夫で長持ちする血液循環が必要なのです。これが心臓循環(冠状循環)です。

心臓は四つの部屋をもっている

 心臓は強力なポンプとして働いています。なぜならば、全身にくまなく血液をゆきわたらせる必要があるからです。頭のてっぺんからつま先まで、血液を流すには、相当な力が必要です。この力がすなわち「血圧」というわけです。

 心臓の重さは成人男子でおよそ200~300グラムといわれます。大きさはちょうど握りこぶしくらいです。

 心臓の構造は四つの部屋からなっています。血液の流れにそって説明していきましょう。

 まず、血液を全身に送りだす部屋は「左心室」です。ここから体循環がはじまります。さて、全身にゆきわたった血液が戻ってくる部屋が「右心房」。汚れた血液で満たされる部屋です。その部屋から次は「右心室」に運ばれ肺循環によって、肺に血液を送ります。

 肺でクリーンになった血液が入ってくる部屋が「左心房」です。この部屋にいったん入った血液は、次の「左心室」に送られ全身に運ばれるというわけです。「左心室」は全身に血液を流す必要がありますから筋肉も強く、筋肉層は約10ミリにも達します。それに比べ、「右心房」や「左心房」は血液を心臓に受け入れる部屋ですから、筋肉の壁は薄くわずかに2~3ミリと、際だった違いを見せています。

 こうした心臓の構造からも推察されるように、血液を送りだす側の動脈は血圧が高く、心臓に血液が戻っていく静脈は血圧が低くなっています。動脈側は高い圧力の血圧を流す必要がありますから、血管の構造自体も丈夫になっています。というよりは、非常に柔軟性に富んでいるのです。

血管は三層構造になっている

 血管はよく道路にたとえられます。大動脈は幹線道路といったところでしょうか。流れる血液の量も多く、かつまた圧力も高いのです。大きな道路、たいてい三車線くらいあります。動脈も同じで、大きくは三層構造になっているのです。いちばん外側は外膜。真ん中は中膜。内側が内膜となっています。

 なぜ、三層構造になっているのかといえば、高い血圧に柔軟に対処するためなのです。動脈は概して血管が太くなっていますが、血液が流れる径は小さいものです。小さいのにたくさんの血液を流すことが可能です。その理由は血管が柔軟だからなのです。

 柔軟なだけではありません。動脈にはこのほかにも秘密があって、たとえば血液と接する内臓の内側には内皮細胞と呼ばれる細胞があり、血液細胞の血小板などが付着しないようになっています。

 また、中膜は平滑筋細胞で構成されており、交感神経がかよっています。この交感神経は重要な働きをしており、血圧のコントロールをしているのです。このように、動脈は心臓から送りだされる血液が正常な状態で、確実に全身にゆきわたるように、いろいろな仕組みをもっているのです。

 ところで、心臓から送りだされた血液はその流れの目的によって血管の構造が若干異なります。血液が流れるだけのものは大きい動脈です。大動脈、総頸動脈、鎖骨下動脈などです。これらの血管は大量の血液を流す必要があるので、非常に弾力性に富み、動脈の壁は比較的厚くなっています。一般的に、「弾性動脈」といわれています。

 この大動脈からさらに臓器へとつながっていく動脈があります。肝動脈、腎動脈、上腕動脈などがそれです。筋性動脈と呼ばれています。

濃度のセンサーも付いている

 動脈の働きで忘れてならないのが、酸素や二酸化炭素の濃度センサーです。

 血圧の変化をキャッチする場所は「圧受容体」と呼ばれ、総頸動脈が枝分かれする部分などについています。ここで、血圧の異常がキャッチされ、交感神経が刺激されて、血管が収縮することにより、血圧を調整するのです。

 この「圧受容体」とは別に、頸動脈小体と呼ばれるものがあり、ここで血液中の酸素と二酸化炭素の濃度をキャッチしています。二酸化炭素が増えていれば、呼吸数や脈拍を多くして、酸素濃度を高くします。と同時に、血圧なども調整します。この装置を「化学受容体」といいます。

 このように、血管は単に血液を送るパイプではないのです。

 血液の流れに順応し、多くの流れが必要な場合は血管を大きく広げ、逆に広がりすぎた場合は閉じるのです。そのほか、血液の中身もチェックし、呼吸数や脈拍数を増やしたりもするのです。なかなかのスグレモノということができるでしょう。

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