高血圧の漢方療法

全身に作用し調和をはかる

 西洋医学による高血圧の治療目的は血圧を長期にわたって下げることにより合併症を予防することにあります。極めて多数の患者さんを対象とした長期間の研究により、この降圧療法の有効性が確認されています。一方、漢方による高血圧の治療は永い漢方の歴史の中で考えると、西洋医学と同様に比較的最近の経験より成り立っています。また、漢方治療の対象は血圧を下げることを直接の目標とせずに、心身全体の調和を整えて血圧を安定させ、自覚症の改善を目的としているといわれています。ですから全身にゆっくり作用し、高血圧に付随する肩こり、頭痛等の不定愁訴の軽減には効く場合がありますが、降圧作用は西洋医学薬より弱いといわれています。したがって高血圧の漢方治療の適応は軽症高血圧中でも頭痛、めまい、イライラ、肩こり等の不定愁訴の強い高血圧にあると考えられていて、重症高血圧の漢方単独療法は適応でないと考えられています。

 漢方薬といってもいろいろな種類があり、また用法や目的も異なりますので、代表的な漢方薬について説明しましょう。

 なお漢方も保健医療の対象になっており、副作用もないわけではありませんから、医師の処方に任せることが肝心です。

大柴胡湯(だいさいことう)

 ポピュラーな漢方薬です。頭痛、肩こりなどに効果があります。

三黄瀉心湯(さんおうしゃしんどう)

 赤ら顔でのぼせる傾向のある人にもちいます。便秘ぎみでみぞおちにつかえる感じがする場合や、睡眠が十分にとれない場合。

防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)

 体力があり、血気盛んな人のためのもの。便秘の傾向にあり、色が白いのに顔が血圧のために赤くなっているような人にもちいます。動悸、肩こり、のぼせなどに効果あり。

黄連解毒湯(おうれんげどくとう)

 精神的なものによって血圧が上がっている場合、精神を安定させ、ストレスの緩和に役立ちます。

柴胡加竜骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)

 体力があるのに動悸がする場合、神経過敏になり、肩こり、頭痛、イライラが目だつ人にもちいます。おこりっぽい人の精神安定に役立ち、血圧を下げます。

釣藤散(ちょうとうさん)

 脳動脈硬化ぎみで、しかも体力がなくなっている人のためにもちいます。午前中、頭痛がして気分もすぐれずイライラ、ムカムカしている人は精神安定の働きもします。

 高血圧による目の充血、肩こり、物忘れなどにも効果あり。

桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)

 体力が弱り、足が冷えたり、下腹部に抵抗感をおぼえる人にもちいます。女性の更年期に効果あり。高血圧によるのぼせ、まめい、肩こりなどにいいとされます。

八味丸(はちみがん)

 中高年の人にもちいるもの。体力が弱っていても、比較的安全に使用できます。腰から下の脱力感、冷え性、夜間の排尿の回数の増加、精力減退などに効き目があります。

七物降下湯(しちもつこうかとう)

 尿にタンパクがでた場合にもちいます。息切れ、疲れ、頭痛などに効果あり。